昨日、以下のようなコメント付きリツイートをしました。
面白そうな研究だな〜と思って引用元の論文を読んでみたけど「トレーニング効果」なんて調べてなかった・・・。
やはり自ら一次情報にあたる(=自分で論文を読む)ことは重要だな。https://t.co/cS45crg7pH https://t.co/0LfyVRRo8o
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
私が以前から訴えているように、誰かが論文を引用して意見を発信しているのを見たら、その一次情報である論文を自分でも読んで確認したほうがよいということを証明したエピソードでした。
#577 誰かが学術論文を引用して意見を発信していたら、その学術論文を読んでチェックしたほうがいい理由
しかし、今日のブログの主旨はそこではありません。
上記リツイート元で紹介されていた研究は、期待させられたような「トレーニング効果」を調べた研究ではなかったものの、とても興味深い内容だったので論文レビューという形で紹介します。
もちろん、この論文レビューは私の解釈なので、ぜひとも皆さんも一次情報である論文を読んでいただきチェックしていてだければと思います。
論文の内容
研究プロトコル
女子ハンドボール選手10名が被験者として研究に参加した。
研究の目的は2つ:
- 目的その①:カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)の高さとボックスジャンプで飛び乗れる最高の台の高さの関係性を調べる
- 目的その②:高い台と低い台を使ったときに、ボックスジャンプのtakeoff時のバイオメカニクス的特徴に差があるかを調べる
被験者はまず、最大努力のCMJを実施(CMJ高の決定)。
次に、ボックスジャンプを台を徐々に高くして実施し、飛び乗れる最大の台の高さを決定。
そして、低い台(CMJ高の70%)と高い台(飛び乗れる最大の台の高さの90%)でのボックスジャンプを実施し(どちらも最大努力)、takeoff(離地)時の床反力を計測して比較。
結果
主だった内容だけ抜粋します。
- CMJ高とボックスジャンプで飛び乗れる最大の台の高さの間には、有意な相関関係は見られなかった(r2=0.35, p=0.071)
- 低い台と高い台の間には、床反力から計算したキネティクス・キネマティクス変数の値に有意な差は見られなかった(peak force、peak power、身体重心変位、RFD、takeoffまでのコンセントリック時間)
考察
まず目的その①について見てみると、CMJ高とボックスジャンプで飛び乗れる最大の台の高さの間には、有意な相関関係は見られなかったということでした。
つまり、ボックスジャンプでより高い台に飛び乗ることができる能力というのは、単純に高く跳べるジャンプ力だけではなく、それ以外の要因も関わっているということです。
おそらく、より深いスクワット姿勢で台の上に着地するために必要な股関節周りの柔軟性や、足を台の上に引き上げるのに必要な股関節屈筋群の筋力等が重要なんだろうな〜というのが私の仮説です。
とはいえ、相関係数rを2乗した値が0.35ということは、相関係数rは0.6程度なので、そこそこ相関はあるっちゃある、つまり単純に高く跳べるジャンプ力も重要っちゃ重要っていうことです。
被験者数が10名と少ないので、これを30名くらいに増やしたら、統計学的には有意な結果になっていた可能性は高いでしょう。
でもやはり、ボックスジャンプで飛び乗れる台の高さはジャンプ力の指標とは別物と捉えたほうが良さそうであることは間違いないです。
次に目的その②について見てみると、最大努力でできるだけ高く跳ぼうとする限りは、takeoff時のキネティクス・キネマティクスは台の高さによって変わらないという結果でした。
つまり、非常に単純に考えると、無理に高い台を使わなくても、十分にボックスジャンプのトレーニング効果を得ることができるのではないか、ということが予想できるデータが示されたということです。
無理に高い台を使うと、失敗した時の落下によるケガのリスクが高くなったり、変な姿勢で台の上に着地することでどこかしら痛めてしまうリスクがあります。
そのようなリスクについては、私は以前から懸念しており、ブログ記事でにも書いています(もう8年も前の記事です)。
ギリギリ飛び乗れるような高いボックスを使わなくても、全力でジャンプしさえすれば、低いボックスでも同じだけのトレーニング効果は得られるはずだし、着地時のストレスを小さくするというメリットも十分に得られるはずです。
#117 トレーニング手段としてボックスジャンプを用いるなら、無理やり高いボックスに飛び乗る必要はない
とはいえ、この目的その②のほうの結果を解釈するときにも注意が必要です。
まず、被験者数が10名と少ないので、もっと増やしたら統計学的に有意な差が見られたかもしれません。
実際に、差の大きさをeffect size等で見るかぎりでは、peak forceとRFDについては少し差があるように見えなくもありません。
だから、今回の研究の結果だけをもって、台の高さによってこれらの変数に差は生じない、と言い切ってしまうことはできないかな〜と思います。
この論文では分析・報告されていない変数において差が見られた可能性もありますし。
疑った見方をすれば、「台の高さによって違いはない」という結論を導くために、差が見られなかった変数だけを厳選して報告している、なんて可能性もゼロではないですからね。
個人的には、この研究で得られたすべての床反力の生データをもらって、自分でいろいろと他の変数も含めて分析してみたいという気持ちです。
また、この研究で比較しているのはtakeoff時のバイオメカニクス的特徴だけ、というのも解釈するうえで大きなポイントです。
ボックスジャンプで飛び乗る台の高さを変えた場合に、takeoff時のキネティクス・キネマティクスに差がないから、「トレーニング効果」にも差はないであろう、と予想してしまいたくなるところではありますが、それだと視野が狭いです。
もしかしたら、takeoffの動きが身体に与えるトレーニング刺激には差がないかもしれませんが、台の上の着地動作の違いにより受けるトレーニング刺激が異なり、それが積み重なると「トレーニング効果」にも差が出てくる、なんてことがあるかもしれません。
そこを確認するためには、やはり、実際に低い台を使ってボックスジャンプのトレーニングを実施する場合と、高い台を使ってボックスジャンプのトレーニングを実施する場合を比較するような研究を数週間から数ヶ月かけて実施する必要があります。
さらに言うと、ジャンプ力向上もしくはトリプルエクステンションと呼ばれる下肢三関節伸展動作における力・パワー・力積etcの発揮能力向上という観点では、台の高さによってトレーニング効果には違いがないものの、トリプルエクステンションしたあとに素早くトリプルフレクション(下肢三関節屈曲)をする、という能力を鍛えるためには、ギリギリ飛び乗れるくらいの高い台を使ったほうが良い、ということがあるかもしれません。
これはあくまでも可能性でしかないので、実際にトレーニング研究をして確かめる必要があります。
とはいえ、私が言いたいのは、トレーニング効果を比較する場合、目的によってどちらのほうが有効なのか変わる場合があることを認識することが重要であるということです。
まとめ
以前にブログ記事を書いたように、ギリギリ飛び乗れるくらいの高い台を使ってボックスジャンプを実施することに対しては、私はもともと反対の立場です。
トレーニング効果に大きな差はないだろうし、その割にリスクは高くなってしまうと考えるからです。
今回紹介した研究は、そんな私の考えを少しだけ補強してくれる科学的データを提供してくれるものでした。
とはいえ、最終的には、「トレーニング効果」を直接調べるようなトレーニング研究をやらないと、実際のところを確かめることはできないので、そのような研究が報告されるまでは、ボックスジャンプにおいて高い台を使わないほうがいい、というのは私の個人的な考えにすぎません。
仮に、高い台を使ったほうがトレーニング効果が少しだけ高いという研究が今後報告されたとしても、リスクと効果を天秤にかけたうえで、やはり私は高い台の使用は避けると思います。
もし、高い台を使うとトレーニング効果がめちゃくちゃ高いという研究が今後報告されたら・・・。その時は、少し考えてみたいですね。
読者のみなさんも、SNS等で誰かが論文を引用して発信をしているのを見ても、それを鵜呑みにせず、一次情報である論文をご自身で確認する癖をつけてください。
そして、論文を読んだうえで、それはあくまでも1つのデータでしかないという視点も持ち、そのテーマについてのさまざまな科学的知見や現場での経験等を総合的に判断した上で、S&Cコーチとしての決断をしていただければ。
逆に発信する立場であれば、十分に表現の仕方には気をつけて発信するようにしましょう。自戒も込めて。
動画 科学的知見に基づくトレーニング指導
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
久しぶりにスタバのラテを飲みました。
久しぶりだからうまく感じるんだろうな〜と思ったけど、それほどでも・・・。
スタバのラテって作る人OR店舗によって、うまい場合とそうじゃない場合がある気がするのですが、今回は後者にあたってしまったようです。
「やっぱり久しぶりに飲んだらスタバはうまいな!」と感動したかったんですけども・・・。