#794 「ローテーターカフのトレーニングは軽い負荷で!」という主張は根拠が乏しい

 

Kelly sikkema w45roKo6QYw unsplash

 

昨日、以下のようなツイートをしました:

 

140文字だと伝えたい内容を書ききれないので、ブログで深堀りしてみます。

 

 

「ローテーターカフのトレーニングは軽い負荷で!」という主張は根拠が乏しい

私がこのツイートをしようと思ったのは、引用リツイート元の内容を読んだときに、以下のような感想を持ったからです:

  • ①やはり誰かが論文を引用して発信をしていたら、引用元の論文をチェックしないとダメだな
  • ②論文の内容を解釈するには、研究デザインの理解が重要だな
  • ③ローテーターカフのトレーニングは軽い負荷でやろう!という考え方の人が減らないな

それぞれについて解説していきます。

 

①やはり誰かが論文を引用して発信をしていたら、引用元の論文をチェックしないとダメだな

これは私が以前からたびたび主張していることですが、改めて実感しました。

いちいち引用されている論文を読んでチェックするのは面倒くさいかもしれませんが、正しい情報をインプットするためには、絶対に避けてはいけない作業です。

論文を引用してあたかも根拠があるかのように発信をしていても、「いやいや、この研究結果をもってして、あなたの主張を裏付けることはできないでしょう」という場合があるからです。

» 参考:誰かが学術論文を引用して意見を発信していたら、その学術論文を読んでチェックしたほうがいい理由

 

英語論文の場合は、自分で読んでチェックできる自信がない・・・、なんてケースもあるかもしれません。

しかし、今回のケースでは日本語で書かれた論文が引用されているので、読もうと思えば誰でも読めるはず。

とはいえ、多くの人は情報元を確認しないのが悲しい現実のようです。

大変なのはわかりますが、専門家なのであれば、そしてSNS等から情報をインプットするのであれば、必ず引用元の論文はチェックすべきです。

それが専門家として、トレーニング指導対象者に対する責任ってもんでしょう。

 

 

②論文の内容を解釈するには、研究デザインの理解が重要だな

今回のケースでは、引用元の論文は日本語で書かれているので、文章を読むことは自体はそれほど難しくないはずです。

しかし、文章は読めても、その研究の内容を正確に把握して、自分なりの解釈をするのは難易度が高い作業になります。

とくに「研究デザインの理解」というものが鍵になります。

» 参考:学術論文を読んで研究結果を解釈するには「研究デザイン」の理解が不可欠

 

まず、ツイートでも指摘したように、引用元の論文は「長期的なトレーニング効果」を調べた研究ではありません。

1回エクササイズを実施したら何が起きたのか、という「急性効果」を調べた研究です。

「急性効果」を調べる研究の結果から、長期的にどのようなトレーニング効果が起こるかどうかを確定することはできません。

できるのは長期的なトレーニング効果についての「仮説」を立てることくらいです。

その仮説が正しいかどうかを長期のトレーニング研究で調べてみたら、仮説どおりにいかない、なんてことはしょっちゅう起こります。

 

次に指摘したいのが、この論文では以下の3つの条件だけしか調べられていないという点です:

  • ① 0.5kg+1秒(低負荷+高速度)
  • ② 0.5kg+5秒(低負荷+低速度)
  • ③ 2.5kg+1秒(高負荷+高速度)

ここで問題なのは、「2.5kg+5秒(高負荷+低速度)」という条件が抜けていることです。

それも含めた4つの条件で比べた上で、②の条件がもっとも効果が高くなりそうなデータが出ているのであれば、「低負荷でゆっくりやれば効果が高い可能性がある」くらいの仮説は立てられるかもしれません(それでもトレーニング研究をやって確認するまでは「仮説」にすぎませんが)。

あくまでも、条件を揃えた上で比べるのが大切なんです。

 

したがって、実際にこの研究で調べられた3条件で、まともな比較が可能なのは:

  • ①vs② 負荷は同じで、動作速度が異なる場合の比較
  • ①vs③ 動作速度は同じで、負荷が異なる場合の比較

の2パターンだけです。

②vs③の比較をしたところで、「低負荷のほうがオススメ」なんてことは言えません。

 

また、被験者(個人)の筋力差を考慮に入れず、すべての人が0.5kgと2.5kgという重量を使っていることにも違和感があります。

個人の筋力差を考慮にいれたうえで、最大筋力の〇〇%と△△%で比較する、みたいなやり方で調べてほしいものです。

 

 

③ローテーターカフのトレーニングは軽い負荷でやろう!という考え方の人が減らないな

これ個人的には昔から疑問でした。

とくにメディカル関連の専門家に、「ローテーターカフは軽い負荷でやろう!」と考える方が多い印象があります(もちろん、そうでない方もいますが)。

ローテーターカフだって筋肉なんだから、他の筋肉を鍛えるのと同じように漸進性過負荷の原則にもとづいてトレーニングすればいいのに、と思うのです。

つまり、筋力が強い人はより大きな負荷を用いて鍛えるべきだし、筋力が向上したらそれに合わせて負荷も増やすべきです。

 

よく耳にするのが「ローテーターカフのようなインナーマッスルの場合、負荷が大きすぎるとアウターマッスル(例:三角筋)が過剰に働いてしまい、鍛えるのが難しくなるOR肩に不必要なストレスがかかってしまう」等の考え方です。

しかし、三角筋等の大きな筋肉が過剰に働いてしまいターゲットとする筋肉であるローテーターカフに刺激がいかなくなる、というのは、用いている負荷がその個人にとって過剰だからフォームが崩れているだけです。

その個人が適切なフォームを維持できるところまで負荷を減らせばいいだけのことであり、「ローテーターカフのトレーニングは軽負荷じゃなきゃダメ」と結論づけてしまうのは過剰反応ってもんです。

実際に、個人の筋力の範囲内で負荷を増やす場合は、ローテーターカフの筋活動量だけが選択的に減って、その周りの大きな筋群の活動レベルが選択的に増えるという現象は発見されなかった、と報告している研究もあります。

» 参考:【論文レビュー】ローテーターカフのエクササイズは軽い負荷を使わないとダメ?

 

もっとわかりやすい例として、たとえばアスリートがハムストリングの筋力・柔軟性を向上する目的でルーマニアンデッドリフトを100kgの負荷でやっていたとして、100kgがそのアスリートにとって重すぎて膝が過剰に曲がってしまい(フォームが崩れてデッドリフトみたいな動きになってしまい)、ハムストリングに刺激が行かなくなったとします。

その場合は、ハムストリングに刺激が行くようなフォームが維持できるところまで負荷を下げればいいだけです。95kgとか90kgとか。

そんなことがあったからといって、ルーマニアンデッドリフトは20kgのバーだけで(軽い負荷で)やるべきだ!なんて極端な結論に行き着くわけがないでしょう。

 

ローテーターカフの場合、筋肉のサイズとしては小さいので、各個人の筋力レベルに合わせて適切な負荷を選択したら、結果として軽い重量になることが多いはずです。

それはそれでOKです。

それと、「なんでもかんでもローテーターカフは軽い負荷じゃないとダメ」と主張するのとは、まったくべつのことです。

後者はただの思考停止です。

 

「いや、結果として、ローテーターカフのトレーニングは軽い重量を使うんだったら、どっちでもいいんじゃない?」と思われるかもしれません。

しかし、専門家として、できるだけ根拠にもとづくトレーニングを提供するのが義務だと考えている私からすると、ちゃんと論理的に説明できる根拠がないのはダメでしょう、と思うわけです。

私がおかしいと感じて批判したいのは、その「考え方」の部分です。

 

 

まとめ

昔からこれだけ多くのメディカル系専門職の方々が「ローテーターカフのトレーニングは低負荷がオススメ」と言っているわけなので、それなりの根拠があるのかもしれない、と心のどこかで思いつつ、私の考え方を変えるだけの根拠のある説明を耳にしたことは未だにありません。

ということは、そんなに確固たる根拠なんてものは存在しないんだろうと思っています。

 

他人が言っていることを深く考えずにインプットするのは改めてキケンだと感じます。

せめて自分の頭で考えて、ちゃんと納得できるものだけを取り入れたいものです。

それが専門家としての責任ってもんです。

少なくとも私は、私以外の世の中の専門家すべてが「ローテーターカフのトレーニングは低負荷がオススメ」と主張していたとしても、自分が納得できる根拠を見つけられなければ、自分の考え方を変えることはありません。

 

 

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【編集後記】

久しぶりに論文査読を引き受けました。

私はもう研究者として活動をしていないので、ボランディアで論文査読を引き受けるメリットもないし、義務もありません。

したがって、基本的にはお断りしているのですが、大学・大学院で指導をしてもらった恩師からの依頼を受けた場合のみ、引き受けることにしています。マイルールです。

ただ、あまりにも久しぶりすぎて、英文を書く能力がだいぶ錆びついていました。

べつに今の仕事をするうえで英作文能力は必要ないんですが、せっかく留学して身につけたものなので、ただ失ってしまうのももったいないな〜という気もします。

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