「パワー = 筋力 x スピード」だから、ウエイトトレーニングをして筋力を向上させればパワーも向上する!という主張をよく耳にします。
「ウエイトトレーニングをして筋力を向上させても、競技パフォーマンス向上には結びつかないよ!」というウエイトトレーニング否定論者に対する反論として、この式を持ち出すケースが多い、というのが私の印象です。
今日のブログでは、ウエイトトレーニングの有効性を正当化するために「パワー = 筋力 x スピード」という式を使うのは適切なのかどうかについて、私なりの考えを書きたいと思います。
「パワー = 筋力 x スピード」だから、ウエイトトレーニングをして筋力を向上させればパワーも向上する?
この問いに対する私の答えは「まー、厳密に言うと正確ではないかもしれないし、説明としてはちょっと単純すぎる気もするけど、言わんとしていることは合っている」といった感じです。
①厳密に言うと不正確
まず、「パワー = 筋力 x スピード」という式は、厳密に言うと不正確です。
正しくは「パワー = 力 x 速度」です。
「スピード(速さ)」はスカラーで「速度」はベクトルなので別物です。
ただし、それを理解した上で、「力学の話をしているのではなくトレーニングの話をしているから」という理由で、あえて「パワー = 筋力 x スピード」という表現を使っているのであれば、それは目くじらを立てて「不正確だー!」と文句を言う必要もないかな〜と思います。
②説明が単純すぎる
力学的な正確性を求めず、わかりやすく説明するために「パワー = 筋力 x スピード」という式を用いることはOKとしましょう。
その上で、「ウエイトトレーニングをして筋力を向上させれば、パワーを構成する筋力とスピードという2の要素のうち、前者を大きくすることができるから、結果としてパワーも向上する!」という主張は正しいのでしょうか?
私の意見としては、そうした説明はちょっと単純すぎると思います。
なぜなら、筋力はスピードに依存するからです。
筋の特性として「力ー速度関係」なるものがあります(下図参照)。
力と速度、つまり筋力とスピードはそれぞれ独立した変数ではなく、一方が変われば他方も変わるのです。
したがって、ウエイトトレーニングで最大筋力を高めれば「パワー = 筋力 x スピード」という式の右項のうち筋力が増えるから左項のパワーもそれに比例して増えるというのは、少し雑で乱暴な論理に聞こえます。
実際は、もっと複雑な相互作用が存在しているのです。
③言わんとしていることは合っている
「パワー = 筋力 x スピード」という式を根拠に、ウエイトトレーニングで筋力を向上させればパワーも自動的に向上する、と主張するのは腑に落ちません。
しかし実際には、筋力向上にフォーカスしてウエイトトレーニングを実施すれば、パワーも向上するという科学的知見があります。
特に、筋力が弱いアスリートの場合は効果的です(Cormie et al. 2010)。
したがって、そういった科学的根拠があると知ったうえで、あえてアスリートやコーチに対する説明をわかりやすくするために、「パワー = 筋力 x スピード」という式を用いるのであれば、言わんとしていることは合っているので、まあOKかな〜と思います。
まとめ
いろいろなことを考えて理解した上で、わかりやすさを優先してあえて「パワー = 筋力 x スピード」だから、ウエイトトレーニングをして筋力を向上させればパワーも向上する!と主張するのであれば、それはアリだと思います。
ただし、上で説明したようなことを理解せずに、単純にそう主張しているのであれば、ちょっと薄っぺらいです。
バイオメカニクスを少し勉強したほうがいいでしょう。
動画 S&Cバイオメカニクス入門
2016/6/12追記:GS Performanceの加賀さんが、いろいろなことを理解した上で、パワー = 筋力 x スピード(Power = Force x Velocity)を活用する方法を説明してくれています。合わせてお読み下さい↓
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【編集後記】
現在の読書本です↓