アスリートのインタビュー記事を読んだりして、「これは他の現役アスリートにも参考にしてほしい!」と思ったものを取り上げるシリーズは過去にもいくつか書きまして、大変好評をいただいております。
今回紹介したいのは、競泳の塩浦慎理選手のインタビュー記事です。
水泳選手って、メチャクチャ食べなきゃいけないのご存知でしたか? 塩浦慎理(イトマン東進)インタビュー
タイトルだけ読むと、食事をメインとした内容であるという印象を受けるかもしれませんが、それ以外にもトレーニングや休養についても語られています。
是非、読んでみてください。
私はトレーニング指導が専門のS&Cコーチなので、インタビュー記事の中から、特にトレーニングに関する部分について、参考になると思われる部分を抜粋して、解説してみます。
塩浦選手のインタビューのS&Cコーチ的解説
①(ウエイトトレーニングをして身体を大きくしたら遅くなるということは)“ないですね。でかくして遅くなることはないと思います。陸上選手だってガンガンにウェイトをやって、身体をでかくしてそれでも速く走ってるわけじゃないですか。”
「身体を大きくしたら遅くなる」という漠然とした不安によってウエイトトレーニングをやらないよりは、やったほうがいいという理解をされている発言だと思います。
単純に身体が大きくなると遅くなるのであれば、身体が小さい中学生のほうが成人スイマーより速く泳げるはずですが、実際は成人スイマーのほうが速く泳げます。
じゃあ何が違うのかというと、もちろん技術が洗練されるというのもありますが、筋力の違いが大きいと考えられます。
つまり、身体が大きくなることにより生じうるマイナス面よりも、筋力が向上することのプラス面のほうが大きければ、パフォーマンスをUPすることが可能であるということです。
根拠のない不安に縛られて、アスリートとしてのポテンシャルを伸ばす可能性を潰してしまうのはもったいないので、是非とも適切なウエイトトレーニングを導入していただければと思います。
ちなみに、ウエイトトレーニングのやり方が不適切であれば、身体がでかくなったのにパフォーマンスが落ちたということは起こりえます。
アスリートの皆さんは、身体を大きくする専門家ではなく、パフォーマンス向上のためのトレーニングの専門家(=S&Cコーチ)から指導を受けるようにしてください。
②“個人的に、ウェイトは高校生からガンガンやらせていいと思ってます。” “僕がコーチだったら、高校生になったら絶対やらせる” “日本は特に、ウェイトをやらせたくないという考え方が強いですね。僕も高校時代、「伸びしろはあとに持っていく」ということを言われました。要は、もっと年齢を重ねてからと。” “早ければ早いほどいいんじゃないかと僕は思います。”
あまり若い時期にウエイトトレーニングを始めてしまうと「伸びシロ」がなくなってしまうという考え方はたびたび耳にしますが、まったく根拠がありません。
むしろ、塩浦選手の言うように、高校生からやらせていいと思います。
むしろ、中学生から始めてもいいくらいです。
塩浦選手自身は大学生になってからウエイトトレーニングを始められたようですが、自分の経験や海外のトップ選手を見てきた経験から、もっと早めにウエイトトレーニングを取り入れたほうが良いという感想を持たれたのだと思います。
なぜウエイトトレーニング開始年齢をあえて遅らせないほうがよいのかについては、すでに本ブログで詳しく解説しているので、そちらを読んでみてください。
» 参考:ウエイトトレーニングを若くから始めてしまうと、大人になってからのパフォーマンスの伸びしろを狭めてしまうのか?
③ “理想の泳ぎを追求しようとすると、高校生のときはイメージはしていてもチカラが伴いませんでした。ウェイトトレーニングをやることで、自分のイメージに身体がついてきた実感はすごく感じています。” “(その筋力は、泳ぐだけでは身につきづらいものですか?) 難しいと思います。パドルという手に板のようなものをつける器具があるのですが、あれをつければ水の中でもある程度は負荷を掛けられます。でも、ウェイトのほうが圧倒的に強い負荷が掛かるので。”
理想的な技術を身に付けようとしても、それを体現するだけの筋力が伴わなければ、練習をどれだけやっても身に付くことはないということ。
そして、そのための筋力を向上させる手段としては、いわゆる競技動作に特異的なエクササイズ(ここで言うところのパドルで負荷をつけて泳ぐ練習)を実施するよりは、ベーシックなウエイトトレーニングに取り組んだほうが効果も高いし効率も良いということ。
これらの点について、塩浦選手がしっかりと理解されていることがヒシヒシと伝わってくる発言です。
いや〜、シビレます。
べつにパドルを付けて泳ぐことを否定しているわけではないですが、それはあくまでも練習の一環であって、体力向上を目的とするトレーニングという点では、ウエイトトレーニングのほうが効率も効果も高いというお話です。
④“体幹トレーニングもブームですけど、ウェイトを持ってスクワットやってたほうが圧倒的に体幹も強くなります。”
塩浦選手も体幹エクササイズをまったくやっていないわけではないと思いますが、優先順位としては全身を鍛えるウエイトトレーニングのほうがはるかに上であるという考えなのでしょう。
ブームに流されない姿勢、素晴らしいです。
⑤“(サッカーではよく、「キレがなくなる」ということで敬遠する選手もいますね。) あくまでこれも僕の感覚なんですが、キレってキレを出すトレーニングをやるかどうかの話のような気もするんですね。例えば僕がラットプルダウンで100キロ行きましたといっても、それを水の中で伝えられないと意味がない。大学の後輩でも、入学していきなりベンチプレス100キロ行くようなチカラが強い後輩がいたんです。でも、それがストレートに水泳の強さにつながってるわけでもなくて、その辺は水にチカラを伝えるという水泳の難しさでもあります。”
ウエイトトレーニングの重要性を語りつつも、ウエイトトレーニングだけやっていれば良いわけでなく、ウエイトトレーニングで培った筋力を競技の動きの中で使えるようにするには、ウエイトトレーニングとは別に練習をやらないといけないということを理解している発言です。
素晴らしいです。
ウエイトトレーニングの役割と限界、そしてウエイトトレーニングがどのようにして競技のパフォーマンスUPに繋がるのか、これらに関する理解度については、以前に取り上げたプロ野球大谷選手と同じくらい最高レベルだと思います。
残念ながら、トレーニングを教えることを仕事にしている専門家でさえ、ここまで理解できていない人が多いのが現状ですから、塩浦選手の爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらいです。
まとめ
インタビュー記事を読む限りでは、ウエイトトレーニングは何ができて何ができないのかという点についての塩浦選手の理解度はパーフェクトです。素晴らしいです。
過大評価もせず過小評価もせず、正しく理解できていると思います。
ぜひ多くのアスリートにこのインタビュー記事を読んでもらって、ウエイトトレーニングとどう向き合っていけば良いのかについて学んでもらいたいです。
また、拙著を読んでいただくと、ウエイトトレーニングについての理解が深まり、さらに塩浦選手のインタビューの凄さが実感できるようになるはずです。
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【編集後記】
夏のような陽気から、急に冬の寒さに変わりましたね。
激しい運動をしているアスリートは一般人よりも風邪を引きやすいそうなので、十分気を付けてください。