#830 為末さんの動画紹介:専門家は自分の専門性をクリアにして、領域を飛び越えず、他分野の専門家とうまく連携すべし

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Blocks fletcher VBk1hYejqEg unsplash

 

先日、以下のようなツイートをしました:

すごい参考になる動画なので引用リツイートでシェアをしたのですが、思ったより広がっていません。

もっと多くの人に観てほしいので、本ブログでも取り上げて、私なりの視点で解説します。

すぐに観られるように、元の動画をこのブログ記事にも貼り付けておきます。

 

 

自分の専門性をクリアにして、領域を飛び越えず、他分野の専門家とうまく連携できる専門家が求められている

紹介した動画では、「アスリートを取り巻くサポートチーム(いろいろな分野の専門家)に対して、選手としてどんなことを望んでいますか?」という質問が取り上げられています。

それに対する為末さんの回答は「専門的な知見の提供に尽きる」ということでした。

そこからさらに踏み込んだ話も為末さんはされていますが、それを私なりにまとめると以下の3点に集約されます:

  • 自分の専門性をクリアにしてください
  • 自分の領域を飛び越えて専門外のことに口出ししないでください
  • 他分野の専門家とうまく連携してください

私からすると、「為末さん、よくぞ言ってくれました!!」って感じです。

 

動画内で為末さんが「(アスリートを取り巻く専門家たちの)分業制を世界で一番クリアにしているのがアメリカであり、世界で一番曖昧にしているのが日本である」とおっしゃっているとおり、日本では専門外のことに口を出す人が多すぎます。

そして、各専門家の領域が曖昧であるがゆえに、アスリートや競技コーチから見ると、そういう人たちが自分の領域を飛び越えてしまっている、ということがわかりづらい状況になっています。

「(スポーツ)トレーナー」などという曖昧な名称が使われることが多いのも、専門家の領域がクリアにならない原因の1つです。

アスリートを取り巻く専門家(とくに「トレーナー」と一括にされがちな専門家)の各領域について具体的に知りたい方は、池田克也さんのブログで詳しく解説されているので、ぜひそちらをお読みください↓

参考 スポーツトレーナーという名称への違和感とスポーツ医科学専門職の職域ストレングス&コンディショニングのすすめ

 

専門家が自分の専門性をクリアにせず、領域を飛び越えて口出しをしてしまうことで、最終的に不利益を被るのはアスリートです。

専門外のことだから、間違ったことを言っている可能性が高いわけです。

でも、アスリートからすると、その人の専門領域がハッキリしていないので、実際は専門外のことを言っていたとしてもそれに気づくことは難しく、「まあ、専門家の言うことだから信用しよう」となってしまうはずです。

結果として、専門家の領域を飛び越えたアドバイスに従っていても競技力向上に繋がる可能性は低く、場合によっては逆効果になってしまうことすらあるでしょう。

こんなのヒドくないですか?

 

私自身の専門性は、「アスリートの競技力向上のためのトレーニング指導(=ストレングス&コンディショニング、S&C)」です。

専門外のことについて聞かれてもハッキリと「わからない」と答えますし、必要であれば知り合いの専門家を紹介することにしています。

そんなの倫理観のある専門家であれば当たり前の話なんですが、残念ながら、専門外のことに口を出してしまっている人が結構多いのが現実です。

そのような状況に対して感じている私の義憤をブログで書いたりもしています。

» 参考:アスリートのパフォーマンス向上に関わる専門家の職域

» 参考:ドクターはトレーニングの専門家ではない

 

ただし、専門家の一人である私が、他の専門家が領域を飛び越えて口出しをしていることを批判すると、誤解されてしまう恐れがあります。

「ポジショントークなんじゃないか」「自分の領域が侵されるのを恐れて、文句を言っているだけなんじゃないか」「アスリートのことを考えているわけではなくて、ただの領域争いなんじゃないか」と。

 

だからこそ、元アスリートであり、専門家を使うユーザーの立場であった為末さんのような方から、「専門家の領域をクリアにして飛び越えないことを専門家には求めています」と発信していただくことには意義があります。

領域争いなんてまったく関係のない立ち位置から、アスリートの競技力向上のためだけに専門家に求めていることを純粋に伝えてくださっているはずなので。

だからこその「為末さん、よくぞ言ってくれました!!」という私の魂の叫びだったわけです。

 

また、昨年プロ野球を引退された斎藤佑樹さんも、医療従事者やトレーナーを対象として講演をされたときに、専門家への要望として

「自分の知識のないことを言うのはやめてほしい。自分の自信のあることだけを伝えて、わからないことはわからないと伝えてほしい。何となく伝えるのはよくないこと」

とお話をされています(参考記事)。

ケガで苦しんだアスリートの発言だけに重みがあります。

日頃お世話になっている専門家に対して苦言を呈するというのは、アスリートの立場としては難しいと思うのですが、それでもご自身の経験から勇気を持って提言してくれているわけで、我々専門家は真摯に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか?

 

 

為末さんの動画をぜひ観てもらいたい人

冒頭で紹介した為末さんの動画はオススメなんですが、ぜひ観てほしい人は2つのカテゴリーに分かれます:

  • ①アスリートを取り巻く専門家
  • ②専門家を選ぶユーザーの立場であるアスリート・競技コーチ・チーム編成担当者

 

①アスリートを取り巻く専門家

為末さんの動画は、アスリートを取り巻く専門家の一人であるアスレチックトレーナーの質問に対して回答されているものですが、アスレチックトレーナー以外の専門家に対するメッセージでもあると思います。

我々のような専門家は、アスリートから何を求められているのか、をしっかりと認識しておく必要があります。

とくにまだ若手の専門家や専門家を目指している学生の方には、「自分の専門性をクリアにして、その領域を飛び越えず、他の分野の専門家と連携をする」ことの重要性を学んでいただきたいです。

そのためにも、為末さんの動画を何度も繰り返し観て、そのメッセージを頭に叩き込んでください。

私はすでに10回以上は観ました(このブログを書くため、というのもありますが)。

 

すでにベテランの専門家で、領域を飛び越えて専門外のことに口出しをしてしまっているような人は、この動画を見ても変わることはないでしょうから、どうしようもありません。

そういう倫理観のない人がアスリート等のユーザーから選ばれなくなるように、まともな倫理観を持った専門家を増やすしかありません。

 

 

②専門家を選ぶユーザーの立場であるアスリート・競技コーチ・チーム編成担当者

現在のスポーツにおいて、専門家の手を借りずにアスリートが競技をし続けるというのは難しいでしょう。

とくに競技レベルが高くなればなるほど、さまざまな専門家と関わる機会が増えるはずです。

 

とはいえ、専門家と言ってもピンキリです。専門性(腕の善し悪し)という点でも、倫理観という点でも。

そんなのちょっと考えれば、当たり前ですよね。

たとえば、他の分野の専門家を例に挙げて考えると、理容師・美容師だってピンキリじゃないですか?

 

アスリートを取り巻く専門家も同じことです。

どの専門家に依頼するかによって、競技力向上に繋がるかどうか、大きな差がうまれます。

どうせお金を払って専門家に依頼をするのであれば、ユーザーとしても賢くなる必要があります。

 

まずは、どのような専門家が存在していて、彼ら・彼女らができること・できないことはなんなのか(=領域)を知っておきましょう。

そして、倫理観があって有能な専門家は、自分の領域をしっかりと認識し、専門外のことについては「わからない」「できない」としっかりと伝えることができる人たちである、ということも知ってください。

ユーザーとしては「あれもできます、これもできます」と言う専門家一人にすべて任せてしまうほうが、複数の専門家に依頼するよりも、お金も安く済むし使い勝手が良い、と思ってしまうかもしれません。

しかし、実際のところは、「あれもできます、これもできます」と言ってしまっている専門家は、倫理観がなく、自分の専門性についても能力が低い可能性が高いです。

お金をケチったつもりでも、結局のところはお金の無駄遣いになりかねません。

それどころか、お金を払ったのに競技力を低下させることになりかねず、逆に損をしてしまうリスクすらあります。

 

ユーザーとして、賢く専門家を選んで使えるようになるためにも、冒頭で紹介した為末さんの動画をぜひご覧になってください。

 

 

まとめ

自分の専門外のことに口出しをするな!なんて主張をすると、私は他の分野の専門家と仲が悪いかのように思われるかもしれません。

それはまったくの間違いです。

私は自分の専門性をわきまえているからこそ、自分の領域外の専門家をリスペクトし、自分がわからないことについては信頼してお任せするようにしています。

私が信頼できる他の分野の専門家の方も、基本的には同じような考えの持ち主が多く、「トレーニング指導については河森さんにお任せします」と言ってくれます。

そして、お互いにコミニュケーションを取りつつ、チームとしてアスリートの競技力向上をサポートするようにしています。

これこそが、「他分野の専門家とうまく連携して、チームとしてアスリートをサポートする」という好ましい体制だと思います。

 

そんなチームの中に、自分の領域を飛び越えて口出しをするような人がいると、チームとして機能しなくなってしまいます。

そんな専門家にならないように注意しましょう。

そして、専門家を選ぶユーザーの立場の方々は、そういう倫理観のない専門家を選ばないように、ちょっと時間と労力をかけて知識をつけてください。

まずは為末さんの動画を観たり、本ブログ内で紹介した池田さんのブログ記事を読んだりするところから始めていただければ。

 

ちなみに、為末さんの動画では、本ブログで取り上げた以外のトピックについても触れられています。

それらも専門家としては参考になる情報なので、ぜひチェックしてみてください。

しつこいですが、私はすでに10回以上観ましたよ!

 

 

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【編集後記】

自宅兼ジムを建てる土地探しに難航しています。

普通の自宅を建てるのと比べると、建てられる土地にいろいろと制限があるんですよね。

いったい一日のうちに何回不動産情報サイトをチェックしていることやら・・・。

ちょっと心が折れそうですが、人生がかかっていることなので、諦めずになんとか粘り強く探し続けたいと思います。