9/30(日) S&Cコーチとして押さえておきたい考え方セミナー

#552 【競技コーチ向け】重要な試合の直前の時期は、特別なことをやろうとせず、これまでやってきたことを粛々と継続するほうがよいです。少なくとも体力面では。

 

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重要な試合の直前に特別なことをやる必要はある?

「重要な試合」というのは、競技レベルに関係なく、すべてのアスリートやチームにとって存在するものです。

オリンピックや世界選手権かもしれないし、全日本選手権や国体かもしれないし、全国大会の予選(都道府県大会)かもしれないし、インカレやインターハイかもしれません。

 

そんな重要な試合の直前の時期に、さらなるパフォーマンスUPを目指して、普段はやっていないような特別なことをやりたい、と考える競技コーチがいらっしゃるかもしれません。

特別な試合に向けての準備として特別なことをやる。

一見、理にかなっているようにも聞こえますが、トレーニング指導の専門家の立場から言わせていただくと、「頼むからそんなことはやめてくれ!」というのが本音です。

少なくとも、体力的なトレーニングであったりコンディション調整という観点で考えれば、そんなことをしてもメリットは少ないと言わざるをえません。

 

 

重要な試合の直前に合宿を組む!?

たとえば、重要な試合の直前に、合宿が組まれるケースがあります。

日本代表クラスのアスリートやチームが、海外での国際大会に向けて、時差調整も兼ねて現地で直前合宿を行うというのであれば、それはアリです。

また、「合宿」とは呼んでいるものの、普段から練習・トレーニングをしている拠点をそのまま使っていて、ただ泊りがけで練習・トレーニングをするだけというパターンも大きな問題はありません。

 

しかし、あえて合宿をする必要はなく、普段から練習・トレーニングをしている拠点で練習・トレーニングを継続できる状況にもかかわらず、「重要な試合の前だから特別なことをしよう」というただその理由だけで、普段とは異なる環境で合宿を組んでしまうのはオススメしません。

まず、普段とは異なる環境で生活をしないといけない、ということ自体がアスリートにとってはストレスです。

重要な試合の直前の時期に、不必要なストレスを増やしてどうするんですかい?ってことです。ピーキング失敗しますよ。

 

また、トレーニング指導の専門家の立場から言わせていただくと、合宿先の環境において、普段使っているトレーニング器具が使えないケースが多々あります。

そういう場合は、もともと計画していたトレーニング内容を大幅にカットするか、内容を変更して実施せざるをえなくなります。

内容をカットしてしまうと、計画していたトレーニング刺激を身体に与えることができないため、重要な試合の直前の時期にフィットネスを維持することが困難になってしまいます。

また、トレーニング内容を変更する場合、特にエクササイズを変えざるをえないとなると、アスリートの身体にとっては「新しい刺激・慣れていない刺激」を重要な試合の直前に与えてしまうことになります。

「新しい刺激・慣れていない刺激」は筋肉痛を引き起こしやすく、場合によっては怪我のリスクも高めてしまいます。これは、本来であれば、重要な試合の直前には絶対にほしくないものです。

本来であれば、重要な試合の直前の時期のトレーニングとしては、新しいことは一切導入したくないです。

これまでやってきたことを継続しつつ、「テーパリング」という形でトレーニング負荷を徐々に減らしていくのが理想です。

 

以上のような理由から、海外での大会に向けた時差調整のような特別な理由がない限りは、重要な試合の直前に合宿を組むことはメリットがあまりない一方でデメリットが大きいと言わざるをえません。

 

 

普段やっていない特別なトレーニングは必要?

合宿を組まずに、普段から練習・トレーニングをしている拠点で練習・トレーニングを継続していたとしても、トレーニングの内容を変えてしまうのはオススメしません。特に試合直前の時期には。

重要な試合の直前だから、なにかしら特別なトレーニングをやって、一気にパフォーマンスまたはコンディションをUPさせたいという気持ちはわかります。

しかし、競技コーチ向けに書いた以前のブログ記事でも説明したように、重要な試合の直前になって特別なトレーニングをしたからといって、体力は急に向上しません。そんな非現実的なファンタジーは捨ててください。

#545 【競技コーチ向け】トレーニングをしても体力は急に向上しません!むしろ、急にトレーニング量を増やしたら逆効果です!

 

仮に、その「特別なトレーニング」が短期間で体力を急激にUPできるとしたら、そんなの重要な試合の直前まで温存なんてしてないで、日常のトレーニングから取り入れておけばいいんです。そっちのほうがよっぽどパフォーマンスUPに繋がるはずです。

むしろ、そんなに効果のあるトレーニングを普段はやらせずに重要な試合の直前までとっておくなんて罪です。アスリートにとって害でしかありません。

 

まあ、実際には、重要な試合の直前に特別なトレーニングを導入したからといって、急激に体力が向上することはまずありません。

その一方で、すでに説明したように、今までやっていなかった「特別なトレーニング」というのは、アスリートの身体にとっては「新しい刺激・慣れていない刺激」であり、それは筋肉痛を引き起こしやすく、場合によっては怪我のリスクも高めてしまいます。

つまり、メリットがそれほど得られない一方で、デメリットは大きいのです。 

 

 

まとめ

重要な試合の直前になにか特別なことをやろうとして失敗して、試合本番では自分の実力を発揮しきれずに終わってしまうという話は何度も耳にしてきました。すべては「重要な試合の直前に特別なことをやれば、魔法のようにパフォーマンスを急激にUPすることができる」という幻想にとらわれた結果です。

重要な試合の直前の時期は、それまでに積み重ねた練習・トレーニングの成果をアスリートが本番で発揮できるように、最終調整をする期間です。

特別なことをしようとせずに、これまでやってきたことを粛々と継続するのが最適です。そして、「テーパリング」という形で徐々に負荷を減らしていき、疲労を取り除いてあげるのが賢明です。

 

 

 

 

ちなみに、体力的なコンディション調整という観点では特別なことをしないほうがよいと主張しているだけで、精神的な部分、あるいは技術・戦略的な部分で、重要な試合の直前に普段やっていないような特別なことをすることを全否定しているわけではありません。

たとえば、普段はやらないけど重要な試合の直前に必勝祈願に行くとか、大幅に戦術やらスターティングメンバーを変えるとか。

そういうことであれば、体力的なコンディション調整に影響はあまりないはずなので、それがアスリートやチームにとってプラスになるのであれば、どうぞやってください。

 

 

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【編集後記】

昨日は、オーストラリア留学時代に、大学院博士課程という厳しい困難にともに立ち向かった戦友でもある堀成宏さんとランチをしました。堀さんは現在、西オーストラリア州のWestern Australian Institute of SportでS&Cコーチとして働かれています。お休み中で一時帰国されていたので、久しぶりにお会いすることができました。

S&Cに関する話から、働き方・生き方に関する話まで、幅広いトピックについてお話をして、とても楽しいひとときを過ごすことができました。11月末にオーストラリアのパースで開催されるInternational Conference on Strength Trainingに参加しようと計画中なので、その時に再会できることを楽しみにしています。