日本トレーニング科学会大会でシンポジストを務めて
昨日、第33回日本トレーニング科学会大会にて、シンポジストとしてお話をさせたいただきました。
「トレーニング現場で使える科学ってなに?」というタイトルのシンポジウムでした。
座長が早稲田大学の広瀬先生で、演者が私を含めた3名でした。
演者は3名とも大学院を卒業して現在は現場でトレーニング指導をしている立場の人間でした。
私としては、「学会」という研究者が主に集まっている場において、現場で働く人間のひとりとして、私なりの考え方を伝えるつもりで臨みました。
日本トレーニング科学会は「学会」とはいえ、研究者以外の現場の人間にもオープンな雰囲気で、研究と現場のギャップを埋めようという意気込みも感じました。
我々のような現場の人間を呼んでくれて話をさせてくれたのが、何よりの証拠です。
とはいえ、それでもやっぱり、現場の人間としては学会に参加するというのはハードルが高いかもしれません。
演者のひとりである中島さんも言ってましたが、まず何を着ていったらいいのか、みたいなところから悩んでしまうでしょう。
今回は新型コロナの影響で完全にオンラインで実施されたので、現場の人間としては逆に参加しやすかったかもしれません。
研究と現場のギャップを埋めるには
研究者と現場の人間が集まるような会では、「研究と現場のギャップを埋めるにはどうすればいいのか?」ということがテーマになることが多いです。
おそらく、実際にギャップがあると感じている人が多いからでしょう。
これは日本に限った問題ではありません。
たとえば、アメリカのS&C団体であるNSCAは「Bridging the Gap」というのを掲げて活動しています。
また、2016年に京都で開催された国際ストレングストレーニング学会では、著名な研究者であるフィンランドのHakkinen博士が、研究と現場のギャップについて語られていました。
「日本の状況はどうですか?」と会場に向かって質問もされていて、誰も答えなくて、私が指名されて答えたなんて記憶も今となっては懐かしいです。
国際ストレングストレーニング学会のパネルディスカッションで、Keijo Hakkinen博士が日本人出席者に向けて質問したけど誰も答える人が出てこなかったところ、突然Rob Newton博士に指名されて脇汗ビッチョリンコになりながら英語で答える私の勇姿です!ビビった… pic.twitter.com/hi0qza7OxB
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
何十年も前から世界中で課題となっている研究と現場のギャップ。
それだけ埋めるのが難しいギャップということなのでしょう。
しかし、私というイチ個人のなかでは、このギャップは埋まっています。
自分で論文を読んで科学的知見を仕入れて、それを自分で評価・解釈をして、現場で活用することができているのです。
つまり、河森直紀という人間のなかでは、研究と現場のギャップは存在しないのです。
これは私がもともと研究者志望で博士号まで取得し、その後、進路変更をして、現場でS&Cコーチとして活動してきた、という特殊なバックグラウンドの持ち主だからかもしれません。
私個人のなかでギャップがなかったとしても、業界全体のギャップがなくなるわけではありません。
とはいえ、私個人のなかではギャップがない、というのは、業界全体のギャップを埋めるためのヒントに繋がるはずです。
完全に私見でしかないですが、「なんで私のなかではギャップが存在しないのかな〜」と考えてみると、それはおそらく、私が論文を読めるからです。
だから、現場で働いているS&Cコーチが自分で論文を読めるようになれば、研究と現場のギャップは埋まるはずです。
少なくとも私はそう確信しています。
論文を読めるようになるための教育の機会
ただ問題は、現場で働いているS&Cコーチが論文を読む能力を身に付ける機会があまりない、という点です。
現状、論文を読むための教育を受けようと思ったら、大学院に入学するくらいしか選択肢はありません。
それ以外にも独学で身に付ける、という手もなくはないですが、効率が悪いし、なかなか難しいでしょう。
しかし、大学院に入学しようと思ったら、お金も時間もかかります。
すでに現場で活躍されていて、クライアントさんを多く抱えていたり、それなりのポジションで雇われていたりするS&Cコーチが、それらを手放して、数年間大学院で勉強・研究に没頭する、というのはなかなか難しいでしょう。
とくに結婚されていて、お子さんがいるような場合はなおさらです。
※私はそれでもS&Cコーチが大学院で研究をすることには大きなメリットがあると信じていますし、ぜひともチャレンジしてほしいと思っていますが。
» 参考:S&Cコーチとして、大学院まで行って研究をやるメリット
そこで、昨日の日本トレーニング科学会大会のシンポジウムでは、参加されていた研究者の方々に向けて、「現場指導者に対して論文を読む能力を身に付ける機会を提供してほしい」という提案をしておきました。
イメージとしては、大学の先生方に、エクステンションセンターとか生涯学習センターみたいなところで、学生以外でも誰でも学べるような「論文の読み方講座」みたいなものを作ってほしい、という感じです。
べつに大学ごとではなく、学会としてそのようなコースを作っていただいてもいいと思います。
そういう形であれば、S&Cコーチも現在の仕事を続けつつ、週1~2回の授業を1学期ほど受けて、論文を読む能力を身に付けることが可能になります。
多くのS&Cコーチがそのようなコースを受講し、論文を読む能力を身につけて、日常的に論文を読んでそこから仕入れた科学的知見を現場で活用するようになれば、自然と研究と現場のギャップは埋まっていくでしょう。
まとめ
古今東西存在する研究と現場のギャップという問題に対して、私なりの解決策を提案してみました。
研究者の方々が私の提案を真剣に受け止めて、「論文の読み方講座」みたいなものを提供してくれるようになるかどうかはわかりません。
でも、将来的に実現するといいな、と思っています。
それが実現するまでの間は、現場のS&Cコーチは独学で論文を読む能力をなんとか身に付ける努力をしてください。
今であれば、論文を読めるというだけで、他の多くのS&Cコーチに大きな差をつけられるはずです。
動画 論文の読み方
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【編集後記】
今日は小規模企業共済の手続きをしてきました。
フリーランスが使える節税対策ですね。