私はこれまでS&Cコーチとして、さまざまな競技のアスリートに対してトレーニングを指導してきました。
自分でプレーしたことのある競技もあれば、そうでない競技もあります。
プレーしたことがある、といっても、中学・高校の部活でやっていたバスケのような競技もあれば、学校の体育の授業でやった程度という競技もあります。
また、プレーしたことがない競技でも、テレビ観戦等をしていてルールを含めてよく知っている競技もあれば、トレーニング指導を担当するようになって初めて存在を知ったような競技もあります。
個人的には、S&Cコーチとして特定の競技に特化する気はなくて、どんな競技のアスリートであっても指導できると思っています。
たとえ、自分でプレーしたことがなかったり、ほとんど知らなかったりするような競技であっても、問題なくトレーニング指導をできる自信があります。
その理由としては:
- ①競技によらず、トレーニングの8割くらいは共通したベーシックなものだから
- ②残り2割に相当する、その競技ならではのトレーニングの必要性についても、その競技について学ぶことで徐々にわかってくるから
- ③どちらにしろ、最初は共通したベーシックなものから指導し始めるから、その間に競技についての知識を深める時間はある
ということが挙げられます。
自分でプレーしたことがない競技のアスリートを指導することになったら、S&Cコーチ自らその競技を体験してみたほうがいいのか?
で、今日お話したいのは、自分でプレーしたことがない競技のアスリートに対してトレーニング指導を提供することになった場合に、その競技についての知識を深めるために、自分自身でその競技を体験してみたほうがいいのか?ということです。
結論から言ってしまうと、「どっちでもいいけど、もし体験するなら注意が必要」です。
なぜ、このような結論になるのかを、体験することのメリットとデメリットから考えていきます。
体験することのメリット
まず、S&Cコーチが自ら競技を体験してみることの最大のメリットは、その競技についての理解を深めることに繋がる、という点です。
もちろん、その競技の動きを外から観察したり、手に入る資料や論文等のデータをもとにその競技で必要とされる体力要素を考察したり、というのは大切です。
その一方で、外から見ているのと、実際に自分でやってみるのとでは、印象がまったく変わる可能性があります。
その両者を組み合わせることで、その競技についての理解をより深めることが可能になるかもしれません。
S&Cコーチ自ら競技を体験することのもう1つのメリットは、指導対象であるアスリートから共感や信頼を得ることに繋がるかもしれない、という点です。
自分の競技を体験してくれるS&Cコーチを見て、「この人は私の競技を知ろうとしてくれている」とアスリートが感じてくれるかもしれません。
それが信頼感を高めて、トレーニングにより真剣に取り組んでくれることになれば、競技力向上に繋がる可能性が高まります。
体験することのデメリット
自ら体験することでその競技についての理解を深めることができる、というメリットには、それと表裏一体のデメリットも存在します。
それは、自分が体験して感じたものが、指導対象のアスリートが感じているものと同じであると勘違いしてしまう、というリスクです。
多くの場合、まったく同じ競技をプレーしていても、初心者と競技者とでは、あたかもべつの競技をプレーしているような違いがあるものです。
そして、その違いは、指導対象のアスリートの競技レベルが高ければ高いほど、大きくなります。
たとえば「マラソン」を考えてみてください。
記録が2時間10分を切るようなトップレベルのマラソンランナーのトレーニング指導をすることになったとして、自分も体験してみようとマラソンを走ってみたとします。
ネットで調べてみたところ、東京マラソンの男性の平均タイムが4時間半ほどらしいです。
で、初心者であればもっとタイムが遅いはずで、5時間とか6時間くらいかかるかもしれません。
そんなマラソン初心者のS&Cコーチが、自ら体感したものを参考にしてトレーニング内容を考えたとしても、それが2時間10分を切るようなマラソンランナーに当てはまるかどうかは疑問です。
5時間とか6時間のタイムのランナーが、たとえば平均の4時間半を切ろうとする場合に適切なトレーニングと、2時間10分を切るようなランナーがさらに1分間タイムを縮めようとするトレーニングとでは、まったく異なるはずだからです。
つまり、同じ「マラソン」という競技であっても、初心者が5時間とか6時間で走るそれと、トップランナーが2時間10分を切るようなタイムで走るそれとでは、あたかも別の競技であるくらいの違いがあるということです。
もちろん、そんな違いがあることなんて普通の脳みそをお持ちのS&Cコーチであれば理解できるはずで、それを考慮にいれたうえで指導対象者にトレーニング指導をすれば、大きな問題にはなりません。
しかし、そのような危険がある、ということは認識しておいたほうがいいでしょう。
さらにいうと、それほど大きな違いのあるものを体験してみたところで、どれほど参考になるかはかなりビミョーなところではあります。
また、S&Cコーチがみずから体験することを見せることでアスリートから信頼を得られるかもしれない、というメリットにも、表裏一体のデメリットが存在します。
それは、あまりにもダメダメで見苦しい姿を見せることで、逆に信頼を失ってしまうかも、ということです。
「普段からトレーニングやっているはずなのに、こんな簡単なこともできないのか!だったら、トレーニングなんてやっても、私の競技には役立たないのでは?」なんて思われてしまうリスクがあるのです。
もちろん、どれだけ筋力・爆発的パワー・柔軟性等の体力が高くても、その競技をやったことがないのであれば下手なのは当たり前です。
その競技は、その競技の練習をしないとうまくならないわけですから。
トレーニングはあくまでも補強にすぎず、競技練習と組み合わせることで初めて、その効果を発揮することができます。
だから、普段からトレーニングをしているS&Cコーチが初めて挑戦した競技をうまくできなかったとしても、トレーニングの意義を否定することにはなりません。
しかし、アスリートのなかには、トレーニングと競技練習と競技力の関係性をよく理解できていない人もいるはずです。
そういう場合、S&Cコーチが指導対象者の競技を体験している姿を見せることが、逆効果になってしまうリスクがある、ということは頭の片隅においておいたほうがいいでしょう。
まとめ
今日は、「自分でプレーしたことがない競技のアスリートを指導することになったら、S&Cコーチ自らその競技を体験してみたほうがいいのか?」問題を取り上げました。
すでに結論は言ってありますが、「どっちでもいいけど、もし体験するなら注意が必要」というのが私の意見です。
注意が必要、というのは、デメリットを知っておく必要がある、という意味です。
ただし、今回紹介したデメリットは、あらかじめそのリスクを認識して注意しておけば回避できるようなものなので、それができているのであればなんの問題もありません。
体験したければすればいいでしょう。
とくに、今回紹介した「競技レベルの違いによって、同じ競技でもまったく別物になりうる、そして、競技力向上に必要なトレーニングの内容も異なる可能性がある」という点は、体験するしないとは関係なしに、S&Cコーチが押さえておいたほうがよいことです。
参考にしていただければ。
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【編集後記】
昨年末に本ブログでご紹介した「楽天経済圏」ですが、だんだん改悪が続いていて、雲行きが怪しくなってきました。
現段階ではまだメリットがあるので、私もとどまってはいますが、さらに改悪が続けば引越し先を見つけないといけなくなるかもしれません。
とはいえ、「これだ!」という引越し先(楽天経済圏を超えるようなメリットを提供している経済圏)が現状ないのも事実なんですよね・・・。