先日、ツイッターで競泳大橋選手の東京五輪直前のエピソードに関する記事を紹介しました:
金メダリスト大橋悠依 五輪直前合宿では不調「帰りたいと言いました」https://t.co/TvP0M5NCl1
本番直前に調子よくても本番で調子悪ければダメだし、本番直前に調子悪くても本番で調子良ければオールOK!!
つまり、テーパリング中に調子悪い日があっても気にしないで自分を信じろってこと。
— 河森直紀 Naoki Kawamori (@kawamorinaoki)
今日はこのツイートを深堀りしてブログを書いてみます。
試合直前は体力面の調整だけでなく心理面の調整も大切
オリンピックのような重要な試合に向けての最終調整の時期は、アスリートや競技コーチにとっては非常に難しい時期でもあります。
そのような時期に、体力面でのコンディション調整をおこなうために使える手法として「テーパリング」というものがあります。
テーパリングについては、私も本を1冊書いています。
この本を執筆したときには、主に体力面でのコンディション調整という観点から、試合直前にやるべきこと(やるべきではないこと)について解説しました。
本の中で解説している内容を理解して、それに則って計画を立てて実施していただければ、試合に向けてのコンディション調整で大きな失敗をすることはない、と自信をもって言えるような出来になっています。
しかし、出版から3年以上がたち、最近では、体力面だけでなく心理面の重要性を強く感じるようになってきました。
やっぱり、試合直前の時期はアスリートは不安になるんですよね。
それはある程度しょうがないと思います。
ただし、そうした不安を解消しようとして、練習をたくさんやりすぎちゃったり、あるいは普段やっていないことをやっちゃったりすると、テーパリングが失敗するリスクが高くなります。
つまり、心理面での問題によって、体力面でのコンディション調整が失敗し、結果として試合で本来の実力を発揮できなくなる、ということが起こりうるのです。
だから、試合直前の時期には、体力面だけでなく心理面についても、十分な注意を払ってあげる必要があります。
前回のブログで取り上げた内容も、試合直前の心理面に関する事柄について、最近私なりに気づくことができたことをまとめたものです。
ちょっとタイトル付けがイマイチだったようで、ページビュー数が思ったほど伸びていないのですが、個人的には「これはぜひ全アスリートに知っておいてほしいな」と思うような内容です。
» 参考:テーパリング期間中は練習・トレーニング量が減るから、そのぶん空き時間が増える
試合の直前に調子が悪い日があっても気にするな!!
前回のブログでは「試合直前は練習量が減るからそのぶん空き時間が増えて、いろいろと考え始めてしまい不安を感じやすくなってしまう」という問題について解説をしました。
一方、冒頭のツイートでも取り上げたのはそれとは少し異なる問題で、「試合直前の時期に調子が上がってこなくて不安を感じた」ということです。
「不安を感じる」という心理面での問題という点では同じですが、不安を感じる理由として「空き時間が増えて余計なことを考えてしまう」と「練習中に調子が上がらない」という違いがあります。
今日は後者のパターンについて深堀りして解説していきます。
一言で「練習中に調子が上がらない」といっても、ざっくり分けて2つのパターンがあると思います。
- パターン①:アスリートの主観として調子が悪い気がする
- パターン②:客観的な指標で見てみても、実際に調子が悪い
パターン①の場合の解決策は「気にしない」ということです。
たとえば競泳の場合、重要なのは「アスリートの主観として速く泳げているかどうか」ではなく「実際に早く泳げているかどうか」です。
アスリートが遅いと感じたとしても、タイムを測ったら速く泳げているのであれば全く問題ありません。
逆に、アスリートの主観として調子が良くて速く泳げていると感じたとしても、タイムを測ってみたら全然速くない、ということであれば意味がありません。
主観っていうのはその程度のものなので、主観として調子が悪い気がするのであれば、「そんなの気のせいだ!」と自分に言い聞かせておけばいいでしょう。
一方、パターン②は、たとえば競泳でタイムを測ってみたら実際に遅いというケースです。
この場合の解決策は「気にしない」です。
「いやいや、それじゃあパターン①の解決策と変わらないじゃん!!」と思われた方もいるでしょうが、それでいいんです。
ツイートでも書いたように、重要なのは本番(=試合当日)でのパフォーマンスです。
試合の数日前に最高に調子が良くて世界新記録を出したとしても、誰もメダルをくれません。
試合直前の時期に、調子が悪くて実際のタイムがなかなか上がってこないなんてことは多々あります。
しかし、強化をするべき時期にしっかりと練習やトレーニングを積めていて、テーパリング計画もしっかりと立てられているのであれば、パニックになる必要なんてありません。
それまでに積み重ねてきたプロセスを信じて、「試合当日にはバッチリ良いパフォーマンスを出せるはずだ」くらいにでんと構えておけばいいんです。
実際に、大橋選手だって、東京オリンピック直前に調子が悪すぎて合宿から帰りたい、くらいの状態になっていたのに、本番では金メダルを2つも取ったじゃないですか。
大橋選手の場合、どちらのパターンだったのかはわかりませんが、試合直前の時期の調子と本番でのパフォーマンスは別物だ、ということの1つの証明でもあると思います。
また、同じく競泳のマイケル・フェルプス選手のコーチであるボブ・ボウマン氏によると、フェルプス選手は(恐らく2007年の)世界水泳の開幕3日前の練習でめちゃくちゃ調子が悪かったそうです。
しかし、その後の世界水泳本番で、マイケル・フェルプス選手はリレーも含めると5つの世界新記録を叩き出しています。
これについてボブ・ボウマン氏は「The athlete and coach must have faith in the plan and not panic when temporary setbacks occur.」と述べられています。※出典はこちら↓
まとめ
アスリートは、たとえ試合直前の時期に調子が悪かったとしても気にしないようにしましょう。
とはいえ、「そんなこと言われてもやっぱり不安になっちゃうよ!」というアスリートは多いはずです。
そんなときこそ競技コーチの出番です。
競技コーチこそ、今回のブログで書いた内容を理解した上で、でんと構えてアスリートの不安を取り除いてあげてください。
アスリートと一緒になってパニックになってはいけません。
平井コーチがうまく大橋選手のメンタル面でのコンディション調整をサポートしたように、寄り添ってあげるべきです。
動画 ピーキングのためのテーパリング
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【編集後記】
ここ数ヶ月ほど、生後7ヶ月の息子の夜泣きが激しく、慢性的な寝不足です。
寝不足が続くと、自分のトレーニングをするモチベーションが著しく低下するもんですね。
また、無理やりトレーニングをやっても、力が入らなかったり、頭が痛くなったりします。
やっぱり睡眠って重要だな〜と改めて感じています。