#33 股関節前部のつまり感:Femoral Anterior Glide Syndrome

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フェンシングやバドミントンのように脚を前後に開いた状態でプレーするアスリートをトレーニングしていると、「前脚の股関節の前部がつまる感じがする」という訴えを頻繁に耳にします。

スクワットやランジ動作で深くしゃがもうとする時に「つまる」ことが多い印象です。

最初に聞いた時は「つまるって何だろう?かたいって事かな?」と思い、股関節屈筋のストレッチやフォームローラーを用いたセルフマッサージをするようにアドアイスしたのですが、アスリートの反応はイマイチで「つまり感」は解消されないとの事。

「筋肉がかたい感じじゃなくて、つまる感じなのよ!!わかってるの、あんた?(実際はこんなオネエ言葉ではありませんでしたが)」と改めて言われてしまいました。

この問題はS&Cコーチとして解決せねば、とハートに火がついて以来、この「つまり感」の正体とその解消法について調べる日々が続きました。

 

 

Femoral Anterior Glide Syndrome

そんな中たどり着いたとりあえずの結論が

股関節を屈曲させる時に、大腿骨頭が関節内で適切な動き(posterior glideつまり大腿骨頭が股関節内で後方に滑る事)ができていないため、大腿骨と股関節前部の組織の間でインピンジメントを起こしている

という事でした。

※この状態の視覚的イメージはこちらの動画の前半部分が参考になります。

 

この状態をアメリカの著名な理学療法士であるShirley Sahrmann氏は「femoral anterior glide syndrome」と呼んでいます。

この「femoral anterior glide syndrome」は「股関節のインピンジメント」と呼ぶこともでき、肩のインピンジメントが起こるのと非常に似ています。

実際、肩関節と股関節は兄弟みたいなもので、解剖学的にも機能的にも共通点が多いな~と最近特に感じます。

どちらがお兄さんでどちらか弟かは、まだ私の中で決めかねていますが・・・。

 

 

Femoral Anterior Glide Syndromeが起こる原因

さて、そもそもなぜ「femoral anterior glide syndrome」が起こるのかというメカニズムは複雑で、個々のケースで原因が異なる可能性があります。

そのなかでも、主な原因の一つに股関節の前部が後部と比べて相対的に柔らかいという事があります。

何らかの理由(特定のスポーツ動作を繰り返したり、不適切な姿勢を長時間保ったり、過剰なストレッチをしたり等)で股関節前部が過剰に柔軟(excessive flexibility)になり、逆に股関節伸展筋群や股関節の関節包後部が固く(stiff)なる事により、股関節の前側と後ろ側の間で固さ(stiffness)に差ができ、結果としてstiffnessの小さい股関節前部の方向に大腿骨頭が移動してしまう(このコンセプトは「path of least resistance」と呼ばれています)可能性が考えられます。

 

あるいは、股関節周りの筋群で筋力や各筋肉の動員パターンに何らかの機能障害が生じて、股関節内での大腿骨頭の位置や動きのコントロールがうまくできなくなっている可能性も考えられます。

たとえば、大臀筋がうまく使えないOR弱い場合。

股関節伸展という役割を果たす大臀筋は大腿骨に停止しているため、大腿骨頭の動きを直接的にコントロールする事ができます。

もっと具体的に言うと、大腿骨を後方へ引っ張る事ができるので、大腿骨頭が前方に移動するのを防ぐ役割を果たす事ができます。

しかし大臀筋をうまく使えないアスリートは以外と多いので、それが「femoral anterior glide syndrome」に貢献している可能性は結構高いような気がします。

さらに言うと、大臀筋がうまく使えないOR弱い場合、股関節を伸展するためにハムストリングの貢献度が高くなって、さらに大腿骨頭の前方への移動を助長させてしまう可能性も考えられます(ハムストリングは大腿骨に直接停止せずに、停止部が膝より下(脛骨と腓骨)にあるため、下肢を全体的に(globalに)伸展させる形になり大腿骨頭を前方に引っ張ることになる)。

 

 

どうすりゃいいのさ?

「Femoral anterior glide syndrome」が疑われた時に、この股関節前部のつまり感を取り除き股関節屈曲の可動域を向上させるために何をすれば良いのでしょうか?

現時点で私が考える解決策をいくつか挙げてみます(この解決策は現在進行形で改良中ですし、femoral anterior glide syndromeについてもまだまだ勉強中なので、今後変わる可能性大です)。

 

  • 解決策①:痛みの出るエクササイズや動きをしばらく控える
  • 解決策②:ヒップフレクサー(股関節前部)のストレッチをしばらく控える
  • 解決策③:大殿筋のアクチベーションエクササイズ
  • 解決策④:筋力向上エクササイズ中に大殿筋をしっかり使う
  • 解決策⑤:股関節のモビリティドリル

 

解決策①:痛みの出るエクササイズや動きをしばらく控える

これは普通に考えればわかると思います。

英語のcommon senseというやつです。

 

解決策②:ヒップフレクサー(股関節前部)のストレッチをしばらく控える

ヒップフレクサーを過剰にストレッチすると股関節前部が伸びてしまい、股関節後部とのstiffnessの差が生じて大腿骨頭が前方向に移動してしまう可能性があります。

したがって、この部位のストレッチはしばらく避けたほうが良いでしょう。

私は最初、股関節前部のつまり感を訴えた選手にヒップフレクサーのストレッチをするよう指導していましたが、いろいろ勉強した結果、これは逆効果だったと今では思っています。 

 

解決策③:大臀筋のアクチベーションエクササイズ

上記で述べたように、大臀筋をうまく使えるようになれば大腿骨頭が前方に移動するのを防ぐ事ができる可能性があります。

そのために、例えばこんな感じのアクチベーションエクササイズをやってみると良いでしょう。

ポイントはお尻で割り箸を割るイメージをするのと、ハムストリングはできるだけリラックスした状態を保って大殿筋をメインに使って股関節を伸展させる事です。

また、「femoral anterior glide syndrome」は股関節内旋を伴う事が多いようなので、こんな感じこんな感じの中殿筋アクチベーションドリルを取り入れてみるのもいいかもしれません。  

 

解決策④:筋力向上エクササイズ中に大臀筋をしっかり使う

アクチベーションドリルで大臀筋を使う感覚をつかんだら、スクワットやデッドリフトのようなエクササイズ中も意識して大臀筋を使うようにします。

特にコンセントリック局面をフィニッシュする時に、お尻で割り箸を割るように意識して、しっかりと股関節を伸展する事が大切です。

 

解決策⑤:股関節のモビリティドリル

大腿骨頭のposterior glideの動きを取り戻すために、これとかこれのようなモビリティドリルを実施するのが良いでしょう。

例えば練習前や試合前に股関節前部がつまる場合に即座に効果があるのはこの方法だと思います。

 

 

まとめ

現在、「femoral anterior glide syndrome」の疑いのあるアスリートに対して使えるツールで私が持っているのは上記5つです。

これらを実施しても状態が改善しないようであれば、正直言ってお手上げです。

もしかしたら筋力や筋のmotor controlあるいは関節のstiffness等の問題ではなくて、骨の形状の問題かもしれないので、医療関係の専門家に診てもらうのが良いでしょう。

最近は骨形態異常によって大腿骨頭と寛骨臼の間でインピンジメントが起こる「femoroacetabular impingement(FAI)」という病態も増えてきているようなので、この辺りの知識を持っておく事も必要でしょう。

FAIについてはまた別の機会に書いてみたいと思います。

 

【2017/5/16追記】アップデートした記事を書いたので、そちらも参考にしてください↓

» 参考:股関節前部につまり感がある時の対処法2.0