筋力を鍛えるだけでは不十分なので、パワーも鍛えましょう。パワーとは、大きな力を素早く発揮する能力です。
という文章を目にすることが多いですが、このパワーの定義は正確ではありません。
パワーの定義
力学的な意味での「パワー」の定義は「仕事率」です。
つまり、「単位時間あたりの仕事」です。
難しく言うと、「仕事」を時間で微分したものです。
「力×速度」とも表現できます。
したがって、「パワーとは、大きな仕事を素早く実施する能力です」と言うのであれば、まだ納得できます。
しかし、「仕事≠力」なので、「パワーとは、大きな力を素早く発揮する能力です」という言い方は不正確です。完全にアウトです。
そもそも「仕事」は「力」を変位で積分したものです。別物なんです。
大きな力を素早く発揮してもパワーがゼロの時がある
たとえば、アイソメトリックに「大きな力を素早く発揮」した場合、「パワー」はゼロになります。
動いていないので「変位」がゼロとなり、力を変位で積分した「仕事」もゼロになるからです。
これって矛盾していませんか?
もし、「パワー」の定義が「大きな力を素早く発揮する能力」だとしたら、アイソメトリックであっても「パワー」の値は大きいはずなんですから。
そういう観点から考えても、「パワーとは、大きな力を素早く発揮する能力です」という表現が間違っていることが理解できるはずです。
パワー vs. RFD
「大きな力を素早く発揮する能力」というのは、どちらかと言うと「パワー」というよりも「RFD(rate of force development)」を説明した表現であると捉えたほうが、まだ納得できます。
つまり、 「パワーとは、大きな力を素早く発揮する能力です」と言っちゃっている人は、「パワー」と「RFD」の定義が頭の中でゴチャゴチャになっているのではないかと思います。
あるいは、そもそも理解できていないか。
もし、「大きな力を素早く発揮する能力」を鍛えることの重要性を訴えたいのであれば、「RFDを鍛えましょう」と言えば正確です。
一方、「パワー」を鍛えるのが重要なんだと主張したいのであれば、「パワー」の正確な定義を使ったほうが良いでしょう。
まとめ
言葉の定義が間違っていると、コミュニケーションがうまく取れません。
1人が「大きな力を素早く発揮する能力」のことを「パワー」と(間違えて)呼んでいる時に、それを聞いているもう1人が「仕事率」のことだと考えていると、同じ言葉を使っていても2人が思い描いているものが異なってしまいます。
そのような誤解を抱えたままコミュニーケーションをとっても、相手の意図を正確に把握することができるはずがありません。
また、トレーニング指導の専門家が、体力要素に関連する言葉の定義を正しく理解できていないということは、具体的に何の能力を鍛えようとしているのか正確に把握できていないということです。
トレーニングの目的が明確でないまま、なんとなくトレーニングを実施したとしても、期待するような成果をあげることができるとは、とても思えません。
「そんな細かいこと言わなくてもいいじゃん」で済まさずに、正しい言葉の定義を理解して使いこなしたいものです。
動画 S&Cバイオメカニクス入門
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【編集後記】
今日はJISSでトレーニング指導した後に、自分のトレーニング。
3セット×5レップの3セット目がギリギリ5レップできるかな〜という感じの時に、エミネムの「Lose Yourself」が流れてきて、気持ちが高ぶった結果、3セット目が一番ラクに挙がりました。
音楽の力!そして気持ちの重要性!